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最近の読書 2018年秋 その2 (「はてしない物語」) ―覚え書―  [本(小説)]

いつの間にかすっかり秋になりました。
ちょっと予定外の本を読みました。


「はてしない物語」   ミヒャエル・エンデ 作   上田真而子/佐藤真理子 訳

はてしない物語 (上) (岩波少年文庫 (501))

はてしない物語 (上) (岩波少年文庫 (501))

  • 作者: ミヒャエル・エンデ
  • 出版社/メーカー: 岩波書店
  • 発売日: 2000/06/16
  • メディア: 単行本

はてしない物語 (エンデの傑作ファンタジー)

はてしない物語 (エンデの傑作ファンタジー)

  • 作者: ミヒャエル・エンデ
  • 出版社/メーカー: 岩波書店
  • 発売日: 1982/06/07
  • メディア: 単行本

有名すぎるファンタジーですが、読んだことも見たこともなく(映画「ネバーエンディングストーリー」)、この年になって初めてふれました。

きっかけは、人形劇です。(これも、全く初めての体験)
「人形劇団クラルテ」というところの創立70周年記念公演が、この「はてしない物語」で、チラシを夫が持ってきたのでした。物語も人形劇にも興味があって、公演の前日から(遅いですが)、原作を読み始めました。

人形劇の方が先なのですが(60ページぐらい読んだ後)、これがすごく感動したので、原作に興味を持ちました。

読み継がれるのがわかると思った。本物の名作だと思う。
児童書だなんて思えない。むしろ今の大人が読むべきとも思える内容を含んでいて、自分も心を揺さぶられた。

いじめられっ子の少年バスチアンが彼らから逃げて飛び込んだのが古書店で、そこで1冊の本に魅せられて、つい盗んでしまう。バスチアンは学校をさぼって、(学校の物置部屋で)読む内に、本の中のファンタージエン国に入ってしまう。

このファンタージエンは虚無(消えてなくなる)に侵され滅びそうになっている。
人間の子どもがこの世界へ来てくれれば救われる。

バスチアンはファンタージエンへ来て、女王の名代となる、しるしのメダル「アウリン」を授けられる。その裏には「汝の 欲する ことを なせ」とあり、バスチアンが望むと、その通りになる。

望みがかなって、夢がありそうな物語だが、そうは行かない。バスチアンのおかげでファンタージエンは危機を脱したかに見えたが、望みを一つかなえるごとに、バスチアンは人間世界での記憶を失っていく。

バスチアンの冒険や経験の旅は、そのまま彼の心の遍歴や成長と重なる。
バスチアン自身の物語だけど、これもそのまま、人間全てにあてはまるようなもので、読み応えがあった。

メダルの言葉は「自分がしたいことは何でもしていい」という意味だとバスチアンは言うが、出会ったライオンの言葉は「真に欲することをすべきで、真の意志を持て」ということだ言う。
この道ほど難しく、危険で迷ってしまいやすい道はない、とも言うが、バスチアンはそうしてしまう。

過去の何もできなかった自分を忘れ、傲慢になっていく。バスチアンが来るまでの救い主だったアトレーユの、友を思っての忠告も聞けなくなる。ファンタージエンに来た目的さえ忘れてしまい、元の世界に戻りたい望みすらなくなっていく。

バスチアンが女魔術師サイーデの言葉にそそのかされて、ずっと信頼していた友だった牝らばを手放す話は、(自分も含めて)現実の世界でいくらでもありそうで、心に残る。
相手のためを思って良かれ、なんていうのも、実は自分のためであることに気づけなかったり、自分の気持ちをごまかしたり。真の意志を持つというのはほんとに難しいのだ。

「元帝王たちの都」の章は、何だか現代の人間に近いものを感じて、うすら寒くなってきそうだった。
「過去がなくなったものには、未来もない」という小猿の言葉が残る。
霧の町の住人の共同性についても、考えさせられるところがあった。

「絵の採掘坑」の章は、バスチアンの(人間の)深層心理をさぐる話そのものみたいで、興味深かった。
「生命の水」の章も、バスチアンが(人間が)生きていく上での重要な「みなもと」にたどりついて、物語全体のテーマが浮かび上がる。

ファンタージエンと人間世界はつながっていて、虚無に呑み込まれると人間世界では虚偽(いつわり)というものになる。
人間がファンタージエンを憎んだり恐れることによって、虚無が広がり、それによって、人間世界も虚偽が氾濫していく。
「子どもの頭からファンタジーエンをすっかりたたきだしてしまうよりほか、することがない」というようなせりふがあったが、まさに現代ではないかと思ってしまった。

バスチアン自身も「生きるということがこんなに灰色でおもしろみがなく、神秘なことも驚くこともないのが、これまでどうしても納得できなかった」と言っているが、これも多くの現代の子どもの本音じゃないかと思う。

人間世界(現実)とファンタージエン(想像)の二つの世界が堪能できる(考えさせられる)壮大なファンタジー。大人にも読んでほしいです。



原作の感想だけで、結構長くなってしまいました。
人形劇がすごく良かったのです。

宝塚で舞台を観るのは慣れているが、脚本、演出、人形のデザイン、照明、音楽、どれをとっても良くて、一体感があるというか、何か浮いた感じもなかった。(「総合芸術」という言葉を久しぶりに思い出しました)。
人形劇でこんなに物語の世界に入れるとは思わなかった。

脚本が、原作を知らなくてもわかりやすく、一幕終わってからでも泣きそうだった。テーマもきちんと伝わってきて、終わりの方は涙をこらえていた。(連れがいたので、ちょっと恥ずかしかったのだ)。
原作を読んで、改めて脚色の上手さに感心しました。

感動したのはやっぱり、人形の操作と演技。一人で演っているなんて最初信じられなかった。
動きは複雑だし、でも声はイメージぴったりだし、演技も声優さんより良いというか、感情が伝わってくるのだ。

忘れられない舞台になりました。



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