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「崩壊するアメリカの公教育」 鈴木大裕 著 [本(新書/心理・教育)]

久しぶりに、真面目な(?)本です。

前から気になっていて書きとめていました。時期的に、違う傾向の本を読んでみようと思っても気持ちが乗らなく、いい機会なのでようやく読みました。

崩壊するアメリカの公教育――日本への警告

崩壊するアメリカの公教育――日本への警告

  • 作者: 鈴木 大裕
  • 出版社/メーカー: 岩波書店
  • 発売日: 2016/08/25
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)



著者は16歳の時アメリカの高校へ留学。大学、大学院で教育学を学ぶ。帰国し日本で6年半、公立中学の英語教師として勤務。日本の教育改革を志し、再び渡米して凄まじい教育格差を知る。

以前「貧困大国アメリカ」という本を読んで公の機関を民営化したことで格差が広がるシステムを知ったが、本書は公教育を市場化した、アメリカの教育の現状が描かれる。


「はじめに」にショックを受けることが書いてあった。
アメリカの憲法は教育を受ける権利を国民の基本的人権として保障していないという。

アメリカの教育格差を広げているのが学校選択制と公設民営のチャータースクールというものだ。
2001年に「落ちこぼれ防止法」なんてものが制定されたそうだ。(これもびっくり。しかも20年も前だ)学力基準に到達しない学校への制裁を義務付けた。

アメリカはほとんどの地域で土地にかかる固定資産税が教育予算の主要な財源となっていて、地価が高いと設備も充実するが、貧しい地域では最低必需品のチョークやトイレットペーパーも買えないという。

学校の存続をかけてテストの対象でない教科は省かれ、著者の子どもの学校には、体育、美術、音楽の先生もいなかったという。低所得の子どもはこういう学校かチャータースクールを選択するしかない。

そのチャータースクールは、正規の教員免許がなくても、たった五週間の集中講座で教壇に立てるという。子どもたちは仕切りの中でコンピュータに向かって「個別指導」を受ける。正規教員を減らし、これらの「即席教員」が大人数の生徒をモニターする。


第4章の発展途上国からの「教員輸入」という実態に驚いた。教育において市場原理を追求した結果、教員派遣ビジネスが活性化される。一般労働者と同様、労働力の安い発展途上国からの「輸入」に目が向き、正規教員は使い捨てにされる。

「日本への警告」という副題があるが、第6章の「アメリカのゼロ・トレランスと教育の特権化」というのが、日本でもじわじわ浸透しているようで、先行きを懸念する。(日本でも「ブラック校則」なんて言葉を新聞で見るようになった。)

「トレランス」とは許容や寛容を意味する。ゼロ・トレランスが公教育に進出、拡大して、日常の他愛ない行為が犯罪化され、極端に厳しい処分が日常となった。
ニューヨークの学校で制服違反をした生徒が手錠をかけられたそうだ。盗みを疑われたわずか7歳の少年が手錠をかけられ尋問された。(後で別の生徒が盗みを告白)
「落ちこぼれ防止法」によって、低学力、学習障がいを抱える生徒は次々に排除、自主退学を促される。


終わりの2章は、そういうアメリカの公教育に対して、教員がストを起こしたり、声を上げる人々のことが書かれている。
日本でもコロナ禍で「オンライン授業」というものが取り入れられ、(何度も書くが)「日本への警告」という言葉通り、教育について多くの人が考えて、読んでほしい本です。



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