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「チューリップ・タッチ」 アン・ファイン 著 [本(小説)]

久しぶりに本の事を書きます。
以前買った本を六年ぶりに読みました。
新聞の書評で興味を持ったのですが、虐待された少女と友だちになった少女の話です。
一応買ったものの、書評も「児童書だが救いがない」とかだったと思うので、自分の過去の記憶も薄れて落ち着いたのに、また暗い気持ちになりそうで、読む気になれないままほとんど忘れていました。

今回読んでみて、児童書だけど確かに重かったです。考えてしまって感想を書くのも難しいです。

虐待された少女の名はチューリップ。彼女と友だちになった少女はナタリー。
全編、ナタリーの語りで物語が進みます。
ナタリーの父はホテルの支配人で、一家は、転々といくつものホテルを住まいにしてきました。
今度のホテルで、ナタリーはチューリップと出会って、友だちになります。

チューリップは学校に来ないことの方が多く、仲間はずれでした。
ナタリーの父は、チューリップがうちのホテルに来るのは構わないが、ナタリーがチューリップの家へ行くことは絶対禁じていました。
ナタリーは他の友だちを作る努力はしなく、どうしてチューリップだったのかと思います。

チューリップは嘘をつく癖があって(ナタリーの父は、その話しぶりを"チューリップ・タッチ"と呼んでいました)よくない遊びばかりします。人が傷ついたり、困っているのを見るのがおもしろいのです。
ナタリーの父は中学校はチューリップと別にしようと思っていたのですが、多忙で入学願書の締め切りを忘れていました。チューリップが目論見を見抜いていて、ナタリーの両親の警戒心を緩めさせるため、姿を見せなかったのです。

ナタリーは中学もチューリップと一緒でした。チューリップに問題を起こさせないようにするのが自分の仕事のように思っていたのです。
でも、ある日、ナタリーはチューリップと二人で、大変なことをしてしまいました。

チューリップ・タッチ

チューリップ・タッチ

  • 作者: アン ファイン
  • 出版社/メーカー: 評論社
  • 発売日: 2004/11
  • メディア: 単行本

チューリップのことについて、ナタリーの両親が言い争う場面がリアルでした。
父はチューリップを理解していて、同情的です。

「良いことか悪いことか判断するには、心がちゃんと育っていないといけない。そして心が育つには、人間はちゃんと人間としてあつかわれる必要があるんだ」

母親は言います。

「チューリップは人の感情が大切だということぐらい、よくわかってるわ。だからこそ、ああいうことをするんじゃないの。人の気持ちをなぶって遊ぼうとしたんでしょ。人の気持ちがわかるから、やったんじゃない」

父や他の人たちもわかっていて、ソーシャルワーカーも繰り返し訪ねて行っていたのですが「あれぐらいならいいだろう」ということになっていたことを、ナタリーは知って、心の中で叫びます。

「じゃ、あの一家は自分たちで自分たちを守る以外、方法はなかったんだ。自分たちだけで」
「そのとおりよ。だけどあたしには、世の中を変えるだけの力がない。でもパパたち大人は、力を持ってるじゃない」

ナタリーの言葉がすごく響いてきました。

パパは、あたしの言うことを聞くわけにはいかないのだ。みんなだって、そう。もし、あたしの言うとおりだと思うなら、あたしと同じだけの罪の意識を感じなければならなくなるから。

チューリップが、一度だけナタリーに本音みたいのものを話して、ナタリーが慰める場面が印象的です。
友だちの妹が溺死した話から、ナタリーは、過去にチューリップが子猫をおぼれさせたのかもしれないことを思い出して聞きます。
自分がしないと、チューリップの父が、もっと苦しませる方法でやるので、自分がやった、というのがチューリップの答えでした。
その妹の恐怖は、チューリップも知っているもので、それを知っているものが他にもいると思うと、チューリップの孤独はやわらぐのだろうとナタリーは理解します。
チューリップの父のことから、チューリップの見える世界が狂っているから、嘘をつくことも理解します。
そういう時間がたくさん積み重なれば、チューリップも少しは変わってくるかもしれない、と自分は思うのですが・・・(甘いでしょうか)

ナタリーの心の動きが細やかでリアルで、読み応えがありました。最後の言葉が重いです。(簡単に答えは出ません)


著者は「新聞を読むと、子どもたちが犯罪を犯しているさまざまな事件が目につく。そういう子どもたちの姿を、どうしても書きたかった」と語っています。(訳者あとがきより)
すごく伝わってきました。この本を読んで、そういう子どもたちの心に、多くの人が少しでもふれられたらと思います。

 

 

 

 


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